(2) 長い間苦しんできた股関節変形症

その時のKさんの体は・・・。

骨盤は左上方変位。ということは、
あきらかに仙腸関節のズレということで、
右側も左足をかばうための負担で半ばズレていました。

両足の蹟を合わせると、左足が5センチも短くなっている。

また左股関節部は大きくふくらみ、
大腿部から足先までの大さは右足よりもあきらかに細く、
筋肉が落ちてしまっていました。

右肩甲骨部は左肩甲骨部よりも盛り上がっており、
うつ伏せになったときの姿勢は、
背中から腰にかけて波打っているようでした。

そして、仰向けにして、両膝を立てて開脚したところ、
約30センチほどしか開かず、膝を曲げての屈曲も90度までは
とても曲がりませんでした。

だから、靴下が履けない、爪が切れない。
歩行のときも、足の長さが違うので、
身体を大きく揺らして歩く跛行を余儀なくされています。

台所仕事は、流し台に合った高さの椅子を利用して
なんとかこなしていました。

そんな自分か情けなく、悲しく、
着実に悪くなっていく状態の今後を思うと、

不安で身ぶるいすることが間々あったと、
Kさんは述懐しています。

初診の患者さんには、治療にかかる前の問診を、
かなりの時間を取って行っています。

それは単に骨盤調整の概括的な説明にとどまらず、
なによりも患者さんが理解し、納得してこの治療に
懸けてみようと話し合うことに努めています。

とくに股関節脱臼やその他の難症の人には、
より入念に説明します。

なによりも、治療を始めて中途で脱落して治療に来なくなるのは、
なによりも患者さんにとっての不幸です。

治療する以上は「良くなっていただくため」に、
患者さん自身が前向きな気持ちで頑張り、
根気よく治療をつづけるために説明するのです。

股関節絡みの症状は、先にもいったように悪くするのに
年期の入ったものであるだけに、初回の治療ではもちろん、
しばらくはほとんど変化が見られないのが、
むしろ当然のことです。

そこが他の症状とは異なるやっかいなところなのです。

ところがKさんの場合、初めての治療で、
5センチも差があった足の長さが、
なんと2センチに縮まっていたのでした。

背中から腰にかけて波打っていたのが、
本来のなだらかな曲線も少しもどり、
前屈も治療前よりも曲がるようになっていました。

「ほんと、身体全体がすごく軽くなったように思います」
とKさんがうれしげにいい、少し動きが軽快になっていました。

「これなら治りは案外早いかもしれない」
内心でそう思ったのでした。

Kさんにとって幸いだったことは、
腰椎、胸椎、頚椎に問題となる変位、癒着がなかったことです。

(仙腸関節のズレが原因で)骨盤が歪み、
腰痛や股関節に症状の出た人は、
たいていは椎骨のところどころが左右にズレたり、
前後に凹凸して、その周辺の筋肉、靭帯が硬縮し、

肩、背中、腰、股関節、膝などの痛みだけでなく、
頭痛肩こりをはじめ、視力低下、喘息、不整脈・・・
といった症状を併発しているものですが、

Kさんも各部位のズレはありましたが、
思った以上に身体がやわらかく、
癒着もさほどひどくなかったので、
仙腸関節をはじめ全身の関節を調整して、

そして緩めの操作を加えて硬直を取ると、
すんなりと正しい位置にもどる、
いうところの「治りやすい体質」の人のようです。

そのことをごKさんにいうと、
ご自身も「治る」手応えを感じたようで、
希望に輝く笑顔でうなずいていました。

「ただし、長年の症状ですから、ズレ癖がついています。
それを矯正するには、やはり定期的に通って
治療することが肝要です」と説明しました。

次いでバラコンバンド運動法を説明しました。
毎日自分でやって、自分で痛みを取ることが
できる方法であるからと説明し、

チューブ状のバンドを、足裏より大腿部付け根まで
ゲートル巻きの要領できつめに巻き、

ことに股関節部の付け根のところでは
2巻き、3巻き重ねて巻いたのでした。

このバンド巻きは、
「いくら私が良いといっても、意味がないものです。
あなた自身が納得し、良いと思わなくてはならないのです」

そういって、しばらくしてバンドを解き、どうですか? と問うと、

「あっ、付け根の痛みが来たときよりも軽くなっています。
それに膝も、痛いというほどではなくなった・・・」

この巻き方とチューブ状バンドでの骨盤巻きを併用して、
夜、寝る前にかならず腰回し運動をやってください。

股の付け根が痛くて眠れないということが解消されますから、
とKさんにいったのでした。

このバラコン運動法は、実質的な効果とともに
「きちんと励行する」ことによって、治療に取り組む姿勢が前向きになる、
という精神的な効能もあります。

患者さんの姿勢というか、前向きな気持ちの大切さは、
いつも痛感していて、前向きな人と半信半疑な人では、
治る早さに格段の差がでてきます。

だからこそ、最初に骨盤調整のなんたるかを説き、
それを理解することでその人が治療に懸命に取り組む気持ちを
もつように努めています。

Kさんは「さっそく今晩からやってみます。
自分で巻けないところは主人に手伝ってもらいますから」
と約束してくれました。