(2) ヘルニアの手術を勧めても「治る」とは言わなかった

椎間板ヘルニアの手術について、いろんな本を読んだり、
人に関いたりして自分なりに考えてみた。

従来の椎間板ヘルニアの手術は、患者の背中を切開し、
突き出ている骨化した軟骨を切り取るというものであった。

昨今は「画期的な」レーザー治療法があるようで、
それはヘルニアが突出している位置に向かって、
背中から3センチぐらいの穴を開けて管を通し、
そこにレーザー照射機を入れて患部(ヘルニア)を焼き切るというものだ。

これは従来の方法と比較して、簡単かつ安全であり、
退院時期も格段に早くなったと言っている。

たしかに方法は簡便になったが、
基本的にはこれまでの手術法となんら変わっていないのである。
いまひとつ信頼がおけない。

その証拠に、流し目でオバさま族に絶大な人気を誇っている、
俳優であり歌手である「杉さま」こと杉良太郎も何年か前に
ヘルニアの手術を受けたが、最近また再発して2度目の手術をしている。

「五味先生の本では、突起したヘルニアは痛みの主犯ではなく従犯に過ぎない」
真犯人は別にあると詳しく説明している。

整形外科医やその関係者の書いた腰痛本とはまるで違う理論であって、
なぜそうなのかという原因の説明から、具体的な治療法まで書かれている。

「これしかない」と信じ、まして目と鼻ほどの近くに治療所があるので、
それで来ましたというのがAさんの弁であった。

少し腰をかばうような、ぎこちない歩き方であったが、
それほど深刻な状態ではない。
仙腸関節がズレていることは、診るまでもなくわかった。

まず、私の日ごろの手法である両足の長さの違いを当人に見せて、
仙腸関節の変位からくるものであることを説明し、
座骨の押し上げから始めて、腰まわりを緩め、
仙腸関節のズレを矯正した。

それから上肢の各関節の調整をして、
「さ、立ってみてください」と私が言うと、
こんなものでいいのだろうか、という不審げな表情をした。

それはAさんに限ったものではないが、ともあれ首を回したり、
両腕の付け根をグルグル回させて肩の具合をみさせたり、
腰を左右に握らせたりして状態を本人に確かめさすと、
「先生、楽になりました」急にニコニコして、そう言うのであった。

これも患者さんがよく見せる表情の変化である。
それからスタッフにゆだねて念入りに指圧を施した。

翌日は機嫌のいい顔をしていた。
私を見て、昨夜は珍しくよく熟睡できたし、
今日も午前中仕事をしてきたが、シビレも痛みも感じなかったと言う。

私としては、クリーニング業のアイロンがけのような作業は
結構腰に負担のかかるものだけに、なろうことならしばらく仕事を休み、
治療に専念したほうが早く治癒し、結果的に短期間ですむのであるが、
サラリーマンなら休暇もとれるが、当人が仕事を休むと
そのまま休業になってしまう自営業の人には、
あまり強くは勧められない。

「しばらく治療をつづけたほうがいいですよ」
としか言えなかった。
その日も喜々として帰っていったが、
それから4日間は来なかった。

毎日多く来る患者さんの対応に追われて、
Aさんのことは気に止めなかったが、
5日目に「また痛みがぶり返した」と言って来たAさんに、
しかたがないとは思っても、
(こうしたタイプの患者さんがもっとも困った人なのだ・・・)
との思いは否めなかった。

ちょっと良くなると、ピタッと来なくなり、
それは身体は楽になり、痛みは薄れたからであるが、
だからといって完全に治ったわけではないから、
少し無理すると当然痛み、シビレは再発する。

そうすると「先生、なんとかしてください」と駆け込んで来る。
少し楽になるとまた来なくなる。
そんなことを何度毛繰り返すのだ。
(困った人だ・・・)と言うしかない。

だからといってAさんは、骨盤調整を
いいかげんにとらえているわけではない。

治療にくれば、この治療法を知らなかったら
私はどうなっていたか、そう思うとぞっとします。

先生には感謝々々です、と言うのである。
それでいて、ちょっと良くなると、また顔を見せなくなってしまう。

顔を見せなくなって3日目に、Aさんに紹介されたといって、
商店街の人が治療に来た。

しばらくして、やはり自営業の人の奥さんを紹介してきた。
人を紹介することは本当に熱心である。

月刊自然良能より