いつもいうように、仙腸関節のズレが主因で骨盤が傾くと当然、
上に乗っている脊柱が不安定になり、
これまで左右均等に力を分散させて重い頭部を支えていたものが、
負担が片方に過剰にかかるようになる。
いろんな症状、疾患を誘発するのはこうしたメカニズムに起因している。
「椎間板ヘルニア」もそうだ。
平衡でなくなった脊柱は、つまりはグラグラして、
負担が片側ばかりに異常にかかり、
そうした偏った状態が椎骨を圧迫し、椎間板を押しつぶしてしまい、
中のコロイド状の髄核がはみ出して骨化してしまう。
それがヘルニアというわけだ。
一般的に『腰痛」という言葉で括られるもろもろの症状は、
いまも述べたように骨盤の歪みが根本原因である。
ところがこれらの腰痛のやっかいなところは、
患者さんがこのあたりが「痛い」とか、「しびれる」といっても、
その強弱の正しい度合はつかめないし、
患部そのものも明確に指定できない、
いうところの、「見えない症状」といわれているところである。
疾患の患部が見えなくては、
どう対処していいのか見当がつかないだろう。
そこがやっかいだという所以である。
ところがMRIなどで検査をすると、
椎間板ヘルニアだけははっきりと画像で見ることができる。
整形外科医は、すかさず「椎間板ヘルニアですね」と診断を下す。
だから、その病名を付けられる患者さんが多くなる。
そうしたことを五味会長は「なんでも椎間板」という。
その傾向を祁楡しか言葉でもある。
ところが自然良能会では、ヘルニアは独立した疾患ではなく、
骨盤の歪みから起きるいろんな症状の一つであり、
いずれにも関連するものととらえている。
だから椎間板ヘルニアといって、別の治療をするわけではない。
骨盤調整はどの症状でも、個別の手技も応用するが、
基本的には同じ一律なものだ。「治すため」の治療をしている。
「腰痛は見えない病気」といわれていると先に書いたように、
一般的にはその言葉通りだが、しかし我々自然良能会の治療家には、
もろもろの症状は「見える病気」だといえるのだ。
そのことを端的に表しているのが、
五味会長がいつも示す両足の長さの違いを見せる手法であろう、
同会長白身、それは「パフォーマンスめく」ことと承知しているが、
同時に患者さんに足の長さの違いが、
仙腸関節のズレからきた骨盤の傾きであることを理解させ、
そしてスパッと仙脂関節を調整して、足の長さをピタリそろえると、
患者さんは「実感」として骨盤調整を信頼する。
そうした効果のために行っているものだ。
それが単にはったりに過ぎないものならば、
けれんを極度に嫌う気質の会長だからやらないだろうが、
この治療のなんたるかを直裁に知らしめることゆえ、
あえて見せているようだ。
しかし狂った両足の長さの違いを、
まさに仙腸関節を一発で決めて、ピタッと合わせる
それもきわめて無造作(のよう)に決めることは、
おいそれとはできないかもしれない。
しかし、それができれば治療そのものに
融通無碍に対応できるのではないだろうか?
努めて五味会長の真似をしていただきたいと思うのである。
されば、治療する人は症状がはっきり見える(把握できる)ことだし、
患者さんにそれを見せることもできるものというものであろう。
Sさんも五味会長のパフォーマンスで、
文句なく骨盤調整を信頼し、それから東京総本部通いが始まった。
初めは月四回、ほば週一回のペースで通い、
その後月一、二回の間隔になった。
それでも腰の痛み、足のしびれは改善した。
だが仕事の疲れがたまると、腰に痛みが出る。
それゆえSさんなりの定期的な治療所通いがつづいたのである。
ただSさん、バラコンバンド体操だけは、
朝、晩かならず30分、実に熱心に励行していた。
腰回し運動のバンドばかりではなく、
膝や足首にも細めのバンドを巻いていた。
治したいという思いは熾烈であったようだ。
実はSさん、以前は頻繁にトレーニングジムに通い、
ムキムキの身体づくりに励んでいたという。
そのことを耳にしかスタッフは、
バラコンバンド運動に打ち込むさまも「なるほど」と感じ入ったものだった。
ただ、ジムでのそうしたハードなトレーニングが、
腰痛、つまり椎間板ヘルニアを誘発させた原因になったものと磯貝さんは考え、
いまはジムには顔を出さなくなってしまったという。
そのことが原因であるかどうかは、スタッフにはどうともいえない。
しかしジム通いをやめて体重は10キロ減量し、筋肉もかなり落ちたが、
そのほうが身体や筋肉もやわらかくなって、
「体調もすごくいいのですよ」とSさんは笑っていたことには、
やはり「なるほど」と理屈抜きで感心した。
なによりも正しい姿勢を保つこと-それが肝要である。
だから日常生活の中でもそのことを心がけていれば、
「必要なところには必要な筋肉が付くし、
反対に無駄な肉もつかないものです」
身をもって実感したというのだった、
ここでも「なるほど」と、スタッフも納得だった。
とにかく、いろんな要素が相乗してSさんはめきめきとよくなっていった。
椎間板ヘルニアといっても、特別な治療をするわけではない。
誰とも同じように骨盤調整を、真摯に施術する、
その一点を心掛けて、スタッフは懸命に治療に励んだものだ。
Sさんの趣味は、登山とハイキングという。
一人で行くこともあるが、だいたいは奥さんと二人で行くという。
それが椎間板ヘルニアが出て、あまりの痛さでたまらなかったが、
登山、ハイキングがもうできなくなるのか・・・?
との思いが、なんともせつなく、つらかったとSさんは語った。
「そんな登山の折りに、私がコーヒーを滝れて、
うちの奥さんと一緒に飲むコーヒーの美味しさといったら・・・これは最高です」
諦めていたそうした登山、ハイキングがまたできるようになったのが、
なによりの楽しみです。
Sさんはしみじみと、そういうのだった。
月刊自然良能より