「ここずうっと、夜もうつ伏せでなければ寝れないのです。
仰向けにはなれません」
それに、ちょっとふれられても痛くて・・・と、
話すだけでも痛そうに見えたのだった。
ともあれ、治療布団にうつ伏せになってもらったのであるが、
うつ伏せになってもへっぴり腰であった。
五味会長は、普段は患者さんの両足首をもって
少し引っ張り気味にして両足の長さの違いを見せる。
患者さんはなにか異常があって治療に来ているのだから、
全ての人が足の長さが違っている。
つまり仙腸関節が狂っている証拠だ。
(当然のように)狂っていた。
その違いを患者さん本人に見せて、納得してもらうものだが、
ちょっとふれても痛がるので、それができない。
そこで、座骨の押し上げから始める通常の手順は抜きにして、
まずは仙腸関節の矯正をしなくてはと、
五味会長はスタッフに指示して、
おなかの下にふたつ折りにした座布団を置かせたのであった。
そして、患者さんとは逆向きに立ち、
腰部の右側に左足を着ける調整の構えを取り、
右足の足首を持つか持たないかといった感じで軽く持ち、
右足を右仙腸関節にそっと当てた瞬間、
「ハーッ、気合一声、スバッ調整する。
これが激痛でちょっとふれても痛がる患者さんに対しての
仙腸関節の調整法なのである。
五味会長が常々力説しているように、
この仙腸関節の調整効果は抜群であり、
これこそ自然良能会(骨盤調整)の真骨頂であって、
他のどのような治療も真似のできない同会独自のものである。
なればこそ同会長は、この技法の錬磨の重要性を
日ごろから繰り返し説諭しているのだった。
この仙腸関節の調整は、通常は狂っている側から調整するものである。
左側の腰から足にかけての痛み、シビレを訴えたのだが、
五味会長は右の仙腸関節から調整した。
主因は右側の歪みであったからだ。
五味会長が講習会などで、症状のある人をモデルにして
実際の実技を見せる時、ほとんど右側の調整から始める。
先代会長は「右が80パーーセント」といっていたほど
右仙腸関節の歪みが主原因であることが多い。
そうした人を「ハーッ」と一閃、調整すると、
それまで何センチも短かった右足が逆に長くなっている。
これは右の狂いによる負担を、
自然に左でカバーしているうちに左側も狂わせて、
足がめりこんでしまっているからで、
次に左の油膜関節を調節すると、両足がピタッとそろって、
正しい形になるのである。
仙腸関節を調整した後、その他の関節の調整と緩めを軽めにして、
その日の治療を終えたのだったが、
「立ってみてください」というスタッフの声に促されて、
すうっと立って一瞬、びっくりしたような顔をした。
そして「ウソみたいに身体が楽になっている」といって
ニコニコしたのである。
初診の翌日から3月いっぱいまでは、毎日通って来たのである。
「仕事(自営)はまだまだ私が頑張らないとどうにもなりませんからね、
そのためにもまず健康にならねば・・・。
会長先生のおっしやる通り、中途半端にしないで、
治すときにはそれに専念し徹底的に治します」
そして、それ以降は週に3回か2回のペースで通ってきて、
その後は週1回になった。
「きちんと通えば、確実に治ります」
五味会長はくどくどとした理屈はあまり言わないが、
そうはっきり断言し実行している。
いまでは通常のように家業に精を出し、
またお孫さんの草野球の相手も元気にしているとか。
「自然良能会の昔の本のタイトルではありませんが、
本当に苦しんだのがウソみたいですよ」といい、
なぜもっと早くかからなかったのだろうかと、
それがちょっぴり悔しいですね、と笑っていたのだった。
月刊自然良能より