痛さでべそをかきながら、
歩くのもやっとという格好で入ってきた。
(以前にもいったように)初診の患者さんは、
五味会長が自ら診て治療する。
だが、身体のどこをさわっても、悲鳴を上げて痛がる。
通常の手順のような施術はできない。
腰痛のあらゆる症状の主原因は、
骨盤を構成する仙骨と腸骨を連結している
一対の仙腸関節のズレからきている。
それを矯正するのが骨盤調整の他に類を見ない
画期的な手法なのである。
骨盤調整は、この仙腸関節を正すことに
尽きるといっても過言ではない。
この治療は各関節の調整と緩めを併用して
骨格の歪みを矯正するものだが、
そうした十数通りある基本の操作技法も、
尽きるところは仙腸関節の調整をより効果的にする
補助的なものといえるだろう。
それだけ仙腸関節は大きな意味をもつ関節であり、
現代医学はもちろん、他の誰もが無視してきた
この関節の調整に着目した
骨盤調整の真骨頂といえるものであろう。
それだけに五味会長は、
身体にちょっとふれても悲鳴を上げるような
患者さんの治療は、なにはともあれまず
仙腸関節の調整をするようにしている。
例えば急性のギックリ腰で、激痛で歩くこともできず、
付き添いの入らに抱えられるようにしてきた患者さんは、
まっすぐうつ伏せになることもできないし、
身体にふれるだけで「痛い」と絶叫する。
とても通常の手順で施術はできない。
だからといって、手をこまねいていては、
「どんな症状の患者さんにもかならず対応し、
悩みをきちんと解消させる」
ことを「売り」にしている自然良能会。
五味会長は、お尻を持ち上げるようにしてなんとか
うつ伏せになったそうした患者さんのおなかの下に、
二つ折りにした座布団を入れ、足首をそうっと持ち、
仙腸関節の部位に足の踵を付けるや否や、
間髪をいれずさっと調整する。
急性のギックリ腰の人ならば、それだけでウソみたいに痛みが取れ、
「立ってみてください」という会長の言葉に、
ついさっきまで歩けなくて悲鳴を上げていたのにと、
会長を恨めしげに見ながらも、そちそろと立ち上がろうとすると、
苦もなく立ててびっくりするものだ。
だが、少し年期の入った症状であるから、
急性ギョクリ腰ほど天地の違いはなかったが、
それでも見違えるように痛みが消えて、
驚いた表情をしていたのだった。
当然のように右の仙腸関節を大きくズラしており、
その影響で左も狂わせていた。
そこで五味会長は、まず右の仙腸関節を調整しようと、
治療布団に寝ている右側に逆向きで立ち、
左足を腰に当てるようにして右足の踵を右腰に当てた瞬間、
「ハーッ」と、骨盤調整独特の気合声を出して、
仙腸関節を調整したのだった。
痛みを訴えることはなかった。左も同様だった。
それから各関節の調整と緩めを同会長はつづけた。
普通の患者さんよりは少し軽めのもので、
それでもときには痛そうに眉根に縦じわをよせることもあったが、
治療にかかる前の状態を思えば格段の違いだった。
その後、スタッフが(会長の指示で)力をひかえめにして
指圧をしたのであるが、その間、本当に気持ちよさそうな表情で
眼を閉じていて、「横になってください」とか、
「仰向けになって」という指示に、すうっと身体が動いて
位置を変え、そんな自分にびっくりしていた。
翌日も来た。すっかり明るい表情で、
「昨日は家に帰ったら、本当に眠くって・・・。
夜はパタン、キューで寝てしまいました。
ひさしぶりの熟睡でした」というのだった。
昨日、痛みでめそめそ泣いていた人とはまるで別人みたいであった。
(治療所に限っていえば)初対面の印象は当てにならないようだ。
それからも何日かおきに総本部に顔を出し、
4ケ月余りで30数回通ってきたのだった。
そして、治療を重ねる毎に確実によくなっていった。
「あのまま病院で先生のいうままに、
再度手術していたら・・・と思うと、ぞうっとしますよ」
その言葉を何度も何度も口にしたのだった。
この日を限りで、ぷつんと顔を見せなくなった。
ほば完治しており、日常の動きも常人となんら変わらなくなっていたが、
欲をいえば「最後の仕上げ」の段階でもうひと押し念をいれて
治療しておけばの思いがあった。
しかし、子育てなどでなにかと大変だろうから、
「よしとすべきだろう」と五昧会長もいっていた。
しばらくは音沙汰がなかったが、その後はまた、
思い出したように総本部に顔を出すようになった。
どこといって悪いのではないのだが、
「悪くならないためのお手入れです」といって笑っていたのだった。
月刊 自然良能より